大判例

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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)7640号・昭32年(ワ)7652号 判決

主文

原告らの請求はいづれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立て

(原告ら)

原告らがいづれも被告の従業員として

の地位を有することを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文同旨の判決

第二、原告らの主張

(請求原因)

一、被告は映画の製作等を目的とする会社であるが、原告杉山は昭和二〇年一二月、西川は同一〇年、高張は同一三年、五所は同七年、岸は同一四年、城所は同二二年五月、森園は同二五年四月、伊藤は同一九年、金子は同二一年、山手は同二〇年一二月、加藤は同二一年一月、田部は同二二年、中野は同一五年、中村は同二一年四月にそれぞれ被告会社に雇傭され、じ来その従業員である。

二、被告会社は、同二五年九月二〇日原告らに対して、「連合国最高司令官ダグラス・マッカーサー元師の昭和二五年五月三日以降屡々発せられた声明ならびに書簡の精神と意図に徴し、かつ、最近映画演劇企業経営者に与えられた関係各当局の重大な勧告と指示に基づき、我が社は映画演劇企業の重要性と公共性に鑑みて、日本の安定に対する公然たる破壊者である共産主義者およびその同調者に対し、映画演劇企業防衛の見地からこれを解雇する。」という理由で、同二五年九月二五日限り解雇する旨の意思表示をした。<以下略>

理由

一、原告らがそれぞれその主張する日時頃(ただし、原告森園の入社年月日は昭和一九年である。)映画の製作等を目的とする被告会社に雇傭され、じ来引き続いてその従業員であつたところ、被告会社が請求原因第二項に記載しているように原告らに対して解雇の意思表示をしたことは、解雇理由に被告主張の企業防衛上の理由も付加されていたかどうかは兎も角として、当事者間に争いのない事実と原告ら各本人尋問の結果(杉山、岸、山手は第三回、高張、森園、中村は第二回)から認定できる。

二、本件解雇の意思表示の効力についての判断は暫らく措いて、被告の解雇の承認の主張を先ず取り上げることとする。

(一)  原告中村が被告の主張する日時に、その余の原告らが昭和二六年二月頃、被告会社からそれぞれ本件退職金等(編注、予告手当、退職金、特別手当、昇給差額)を受領したことは当事者間に争いがないところ、右金員中一率三五、四〇〇円の特別手当額が決定された経緯は、<証拠>によると、次のとおりであることが認定でき、他にこれを左右するに足る証拠はない。すなわち、被告会社は、原告らを含む六十数名の従業員に対して同時に同一の理由で解雇の意思を表明したため、原告らの所属する旧組合(この点当事者間に争いがない。)は直ちに組織をあげて解雇反対斗争に取り組んだところ、本件解雇がいわゆるマ書簡に基づくものでもあり、被告会社側に解雇撤回の意図が毛頭なかつたためやむなく、同二五年一〇月一七日頃以来条件斗争に切り替え退職金の増額を要求することとし、中央執行委員会において会社側と十数回に亘る団体交渉を重ねた末、同二六年二月初旬原告らを含む被解雇者に対し所定の退職金のほか前記の特別手当等を支給することによつて今後解雇に伴う一切の紛争を打ち切る旨の妥結が成立した(前記六十数名中約三〇人は依願退職となり、特別手当は一一、八〇〇円)。尤も、右交渉の途中同二五年一二月二〇日旧組合は新組合に改組され、改組後はユニオン・ショップ制であるため、原告らの加入は認められなかつたが(この点当事者間に争いがない。)、新組合が従前の会社側との交渉を引き継ぎ、したがつて、前記妥結は新組合の手でなされた。

(二)  そこで、次に、原告らが本件退職金等を受領した当時の状況について検討する。

(イ)  (原告森園、中村を除くその余の原告ら関係)

<証拠>を綜合すると、本原告らは被告会社大船撮影所分会または東京本社分会に所属していたものであり、新組合に改組された後も組合書記局に出入する等して前記団体交渉の経過、妥結内容を承知していたこと。同人らは同二六年二月二〇日頃大船関係者は大船分会書記長から、東京本社関係者は本社分会書記長から、交渉の経緯、妥結内容と現在の組合の力ではこれ以上特別手当の額を獲得することは出来ない旨告げられたうえ、それぞれ本件退職金等を受領したこと。その際、本原告らは何ら不満の意向、また、受領について留保条件を付けることなく、会社作成の支給明細書も受領のうえ(ただし、原告山手、加藤、田部に明細書は交付されなかつた。)、会社あての予告手当供託書および退職金の領収証を作成して前記書記長に手交し、また、右明細書によると、会社、また、組合からの貸付金等の控除、清算が一切なされていたが、これについても別段文句を云わなかつたこと。以上の各事実が認定でき、前掲原告ら各本人尋問の結果中右認定に反する部分は、関係各証拠とあわせ考えると、採用することは困難である。

(ロ)  (原告森園関係)

<証拠>並びに弁論の全趣旨によると、原告森園は、同二五年八月頃以来京都市の病院で入院加療中のため、被告本社からの郵送によつて同二六年二月二〇日頃入院先で本件退職金等を受領したところ、これに先立ち同二五年一〇月一日頃予告手当として提供された金員については会社側に右一〇月分の賃金として受領する旨の意思を表明したにもかかわらず、前記退職金の受領に当つては、前述した団体交渉の経緯、妥結の内容等を承知していながら、立替金等対会社関係の控除、清算が記載されている同封の支給明細書を一覧したうえ、会社あてに何ら異議、条件を留めない領収証を作成して送付したことが認定でき、右尋問の結果(第二回)中退職金を受領した際賃金の内払として受領する旨の返事を手紙で会社あてに出した旨の部分は弁論の全趣旨から採用することは困難であり、他に右認定を左右すべき証拠はない。

(ハ)  (原告中村関係)

<証拠>によると、原告中村は既に述べたように二回に分けて本件退職金等を受領しているところ、同人は、被告会社下鴨撮影所に在職していたが、同所においても十数人の解雇者が出、東京における前述した団体交渉の経緯、妥結の内容等も承知していながら、弁護士から退職金等を受領しても裁判で争うことはできると聞かされていたため、右受領の都度何ら異議、条件を付けることなく会社あてに領収証を作成して提出していることが認定でき、他にこれを左右するに足る証拠はない。

(三)  原告らが本件退職金等を受領後同三〇年一二月中旬に至るまで被告会社に対して何らの申出をしなかつたことは<証拠>から認定でき、本訴えの提起が同三一年九月二五日に初めてなされたことは一件記録上明らかである。

(四)  以上の事実関係からすると、新組合が被告会社と前記妥結をするについて原告らを代理する権限があつたかどうかは兎も角としても、少くとも、原告らは右妥結内容およびこれに至つた経緯を承知のうえ、同会社が右妥結に基づいて提供した本件退職金等を何らの異議等を留めることなく受領した以上、これによつて原告らは右受領と引き換えに将来本件解雇の効力を争う権利を放棄したものというべく、この意味において、原告らは被告主張の解雇の承認をしたと解するのが相当である。

原告らはいづれも右受領当時本件解雇を承認する意思は毛頭なかつた旨主張、また、供述しているが、かりにそのとおりであつたとしても、既に認定したように右意思が外部に何ら表明されていない以上、せいぜい心裡留保の域を脱することはできず、また、原告らの一部が本件退職金等受領後も時折撮影所附近で解雇反対のビラを配布し、社員章、バッヂ等を被告会社に返還しないまま未だ所持している事実が関係証拠から認定できなくはないが、右事実によつても前記結論を覆すには十分でない。

次に、原告らは憲法等に違反して無効な解雇はこれを承認しても有効にならない旨主張するが、もともと解雇は形成権の行使であるから、これを承認するといことは法律行為としては意味がなく、被告の右承認の主張は、本件における事実主張に即して法律的に構成すると、既に判断したように原告らが将来解雇の効力を争う権利を放棄した旨の主張であると解するのが相当であり、そうだとすると、原告らの右主張はその前提を欠いており、失当である。

三、以上説示した次第で、原告らはすでに本件解雇の効力を争う権利を放棄している以上、いまさら解雇の無効を理由に雇傭関係の存在を主張することは許されず、同人らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当であるから棄却を免れず、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(浅賀栄 宮崎啓一 豊島利夫)

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